「STEAM教育(読み方:スティーム教育)」についてご存知ですか?
IT技術の進化やAIの登場など、時代の変化とともに「活躍できる人材像」が変わり、教育制度は変化しています。そこで注目されているのが、「新たな変化を生み出せる能力を持つ人材」の資質を育てるSTEAM教育。
学研教育総合研究所の調査によると日本での認知度はまだ20%と低いのが現状ですが、アメリカでは国家戦略とされるほど、将来生きていくために非常に重要視されている教育手法でもあります。
この記事では、「耳にしたことはあるけど、よくわからない」STEAM教育について、改めて掘り下げて解説します。
STEAM教育とは
STEAMとは、
- Science(科学)
- Technology(技術)
- Engineering(工学)
- Art(芸術)
- Mathematics(数学)
この5つの単語の頭文字をつなげた造語で、それぞれの領域を重視する教育方針です。
アメリカから広がった教育の概念ですが、日本でも、文部科学省が「思考の基盤となるSTEAM教育をすべての生徒に学ばせる必要がある」と提言するなど、2020年のプログラミング教育必修化を筆頭に、これから導入が進んでいきます。
プログラミング教育の必修化は、全国どの地域でも授業にバラつきが出ないよう文部科学省が示しているカリキュラム編成基準「学習指導要領」の改訂の一部として実施されています。
プログラミング教育についての具体的な学年・授業内容に関しては明確な手法が示されているのではなく、「様々な教科・学年・単元で取り入れ」「各学校の創意工夫により、様々な単元等で積極的に取り組む」ことが期待されており、学びの内容については各学校でバラつきがありそうです。
全学年で1人1台iPadを導入し、Apple Distinguished Schoolに認定された洗足学園小学校や、サイバーエージェント傘下のCA Tech Kidsとパートナーシップ協定を結び、4年生以上は年に2回「プログラミング能力検定」を受験する青山学院初等部など、首都圏でも小学校受験人気校を筆頭に様々な取り組みが行われています。
参考:
- iPadを文房具にした名門校の学びとは?子どもたちが自ら発表を楽しむ授業へ――洗足学園小学校の取り組み
- CA Tech Kids、青山学院初等部とパートナーシップ協定を締結 3年間にわたる本格的なプログラミング教育を共同で実施
また、文部科学省はこの学習指導要領とは別で全国の児童・生徒1人に1台のコンピューターと高速ネットワークを整備する「GIGAスクール構想」を立ち上げており、新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、計画を前倒しし、2020年度内に小中学校への端末導入がほぼ完了しています。
つまり、私たち親世代が通った小学校の常識が、今の子どもには非常識になりつつあるのです。
なぜSTEAM教育が必要なのか
世界のテクノロジーは日増しに進化しており、AI・人工知能やロボットが私たちの社会に当たり前に進出しています。生活の中心にはスマートフォンがあり、あらゆるものがインターネットに繋がるIoTが私たちのライフスタイルを変革していきます。
これからの未来を生きる子どもたちは、これらの技術を使いこなすだけでなく”創る”能力が求められています。野村総研の調査によると、日本の労働人口のうち49%が、将来はAIやロボットで代替される可能性が高い、という試算が出ています。自ら考え、オリジナルのアイディアを生み出し、表現するスキルを身につけておかないと、将来を生き抜くことが難しいのです。
そこで、ひとつの物事をさまざまな視点から考える「分野横断型な学び」の資質を身につけるSTEAM教育が注目されています。
STEAM教育の根本は課題解決型の探究学習
文部科学省が2018年に発表した「Society 5.0 に向けた人材育成 ~ 社会が変わる、学びが変わる ~」のレポートでは、新たな社会を牽引するスキルとして以下のように書かれています。
Society 5.0 を牽引するための鍵は、技術革新や価値創造の源となる飛躍知を発見・創造する人材と、それらの成果と社会課題をつなげ、プラットフォームをはじめとした新たなビジネスを創造する人材であると考えられる。
異分野をつなげることでエコシステムを創造するプラットフォーム・ビジネスの形態は、巨大な規模を持たなくとも、発想次第で新たな価値を創造することができる。このようなプラットフォームを創造できる人材には、異分野をつなげる力と新たな物事にチャレンジするアントレプレナーシップが欠かせない。また、課題解決を指向するエンジニアリング、デザイン的発想に加えて、真理や美の追究を指向するサイエンス、アート的発想の両方を併せ持つ必要がある。
これらの資質・能力に加えて、多くの人を巻き込み引っ張っていくための社会的スキルとリーダーシップが不可欠となろう。新たな価値を創造するリーダーであればこそ、他者を思いやり、多様性を尊重し、持続可能な社会を志向する倫理観、価値観が一層重要となる。
つまり、自ら問題を見つけ、さらにその問題を自ら解決する能力を身に付ける学習方法が必要とされており、その一つとして課題解決型学習 = PBL(Project Based Learning)が注目されています。
※日本語では問題解決型学習と表現されることも
STEAM分野(S:科学、T:技術、E:工学、A:芸術、M:数学)について学べば終わりではなく、子ども自身の自発性、関心、能動性を引き出すことが教師の役割であり、助言者として学習者のサポートをする立場で学習を進めて行く。必然的にグループワークや、プレゼンテーション、体験型の講義が増えていきます。
ペーパーテストで100点を取る正確性も重要ですが、その先の社会で「課題を解決できる力」の育成にフォーカスが当たり始めています。大学などの在り方・勢力図も今後変わってくるのではないでしょうか。個人的には東京藝大など芸術系の大学や、東京理科大学など科学・工学を学ぶことができる大学が改めて注目されていくと考えています。
「答えはたったひとつ」「必ず正しい答えがある」と考えさせるのがこれまでの教育のあり方でした。
しかし、社会に出てから気付くのは「答えは必ずしもひとつではない」「正しい答えが必ずあるとは限らない」ということ。
アメリカのSTEAM教育の事例 “High Tech High”
ハイテックハイ(High Tech High)は、アメリカ・カリフォルニア州サンディエゴに設立されたチャータースクールと呼ばれる公立高校です。決められた教科書も試験もない「こたえのない学校」として、プログラミングや非認知能力の育成に力を入れており、eラーニングを積極的に採用。授業料無料、教科書なし、成績表なしを掲げており、チームを組んでプロジェクトを動かしながら、自分たちで考え、実現する力を養います。
2000年の開校以来、系列の小中学校に加えて大学院が設立され、現在は14校が開校されています。抽選で入学者が選ばれ、生徒の人種やバックグラウンドは多種多様。生徒の約5割は低所得層の子供たちです。
ハイテックハイでは、テストなどの定期的な試験はなく、学習の方向性やプロジェクトのテーマなどは与えられますが、具体的には子供たちが自分たちでテーマを考えプロジェクトを進める学習スタイルです。
テストなどの定期的な試験がないにもかかわらず、ハイテックハイの生徒の学力は州で実施が定められている統一学力テストでは平均を上回り、四年制大学進学率は9割を超えます。
例えば、人文科学の授業では1カ月かけてベトナム戦争を題材にした劇を各クラスで作り、全校集会で発表するというプロジェクトが行われました。家族や体験者へのヒアリングから始めて生徒同士で議論し、ベトナム戦争を多角的に捉え、考えを深めます。その後、2人ペアになって劇の脚本を書き、クラスでプレゼン。一番に選ばれた脚本をクラス全員で劇にして、4クラスで全く異なる内容のアウトプットが生まれたそうです。
大切なことは「生徒主体」であること、そして自由に学べることで自ら知識を吸収する資質を養えること。
グローバル規模で評価されている課題解決型学習において、HIGH TECH HIGHは外すことができない代表的な成功事例です。
AIの技術を使って現代のモーツアルトをよみがえらせる
開成高等学校、武蔵野大学附属千代田高等学院、広尾学園高等学校、立教池袋高等学校から応募した生徒たちが参加した「Project Z」と名付けられたこの取り組みには、高校生に加えて、PCメーカー・日本HPを中心とする企業やプロクリエーターが機材、技術、クリエイティブ面のサポーターとして参加。「もし現代にモーツァルトが生きていたら」というテーマで、AIにモーツァルトの楽曲や彼が遺した手紙の文章を機械学習させることで「モーツァルトの新曲」を現代に生み出そうというもの。
実際に制作された楽曲はこちらのリンクから視聴が可能です。
https://jp.ext.hp.com/techdevice/event/project_z/
JALが取り組む”空育®”JAL STEAM SCHOOL
日本では民間の取り組みも盛んに行われています。JALは航空会社らしい体験型プログラムを中心とした非日常体験を通じ、「空」の素晴らしさに触れることで、新たな発見やさらなる学びを得て、「未来」を考える機会提供する、「空育®」を推進しています。
JAL STEAM SCHOOLは、空を通じて未来を考える「空育®」の新たな教育プログラムの1つ。第一回の開講では、パイロットや技術者、JALのプロフェッショナルが、コーチングスタッフとして航空力学を基礎からわかりやすく教え、8000通り以上の主翼を組み立てられる教材とアプリを使い、フライトシミュレーションを実施。実験の検証から航空力学の法則を見つけ、自分の飛行機をデザインするという内容でした。
https://www.youtube.com/watch?v=jRfwnTpWwa8
STEAM教育の課題
日本におけるSTEAM教育の課題は、何といっても「教えられる人が少ない」ことにあります。プログラミングなどの技術はもちろんプロが教えることができますが、STEAM教育の根本は「課題解決型学習」。たった一つの正解を導くのではなく、あらゆる可能性をグループワークを通じて答えを生み出していくというプロセスは、これまでの日本人が最も苦手とする分野です。
ただでさえ忙しい日本の先生が、「問題について議論し、どう解決できるか過程を学ぶこと」を教えるという、新たな専門的なスキルを求められてしまっているのが現状です。
そのような教育者の育成は10年以上の長い年月が必要です。それまでは、民間企業の支援や家庭の力で、新しい学びのあり方をサポートしていくことが重要になってくるのではと考えています。
STEAM教育の通信教材「WONDERBOX」
ワンダーボックスは、毎月届くキット(ワークブックやパズルなど)と専用アプリを組み合わせて学ぶ、STEAM教育領域の新しい形の通信教育サービスです。子どもの意欲を引き出し、感性と思考力を育てることを目的としており、 教材の多くが、最終的には正解のない自由な創作に行き着くように設計されています。
対象年齢は4〜10歳のお子さまを持ち、どんなことからも学びを得る好奇心や感性を引き出したいと考えているご家庭。まさに、STEAM教育のフレームワークを家庭でも取り入れたいと考えている方に最適です。
教材と連動している思考力育成アプリ「シンクシンク」は世界150ヶ国に170万ユーザーを持ち、IQ、学力を伸ばす効果があることが、実証実験によって確認されています。
アプリとキットの「良いとこ取り」で、常に新鮮なわくわくが続きます。
リアルでは体験できないことを再現できる「デジタルの良さ」と、手を動かしながら考えることのできる「リアルの良さ」。これらを組み合わせることによって、両方の良さが相乗効果となって、さらにわくわくする体験が提供されます。
WONDERBOX
形式 :通信教育(郵送されるキット、専用アプリを組み合わせた教材)
価格 :月々3,700円〜(税込)
対象年齢 :4-10歳
さあ、未来を学ぼう!
STEAM教育が浸透してきている意味を見出すには、これからの未来が大きく変わろうとしていることをまず認識することが重要です。その環境で価値を生み出す人に成長するためには、かつての教育とは異なる学びが必要であると親の立場から感じ取り、テストの偏差値を意識した詰め込み教育ではない子育ての視点を大人もしっかりと鍛えていく必要があります。
人の先頭に立つ人ではなく、人の中心に立ち、様々な力を統合して課題解決ができる力。
その力が必ず、そう遠くない未来では求められるのです。
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